チャールズ&レイ・イームズ、ジョージ・ネルソン、ル・コルビジェ、ミース・ファン・デル・ローエ、etc…多くの伝説的なデザイナーにより優れた家具デザインが世に残っています。
その多くは名作家具として何十年以上も長い期間販売をされつづけ、それぞれ正規品が存在し、正規メーカーが製造販売を続けています。
そんな有名なデザインに正規メーカー以外で似たデザインの家具が格安で販売されている光景を目にする機会が増えました。
それらは「リプロダクト」や「ジェネリック家具」と名付けられて販売されています。
リプロダクトとは:
デザイナーにより作られた製品の多くには意匠権が登録されています。 リプロダクト品とは、意匠権の期限が切れた製品を、オリジナルデザインを元に出来るだけ忠実に復刻生産した製品です。
こんなような説明をされていることが大半です。
リプロダクト家具には様々な説明のされ方があり、「ライセンスが切れている」だの「版権が切れている」といった曖昧な説明をしているケースも見ます。果たしてライセンスとは版権とは何を指しているのか意味が不明です。
ジェネリック家具は後発医薬品のジェネリック医薬品から名づけられた名称ですね。
特許が切れた薬品という部分を意匠権が切れたにかけて名付けたのでしょう。
(デザイナーズ家具という名称も模倣品の物としてつけられています。)
リプロダクト家具、ジェネリック家具は果たしてその説明のとおり問題のない製品なのでしょうか。
リプロダクト家具、ジェネリック家具の問題
先に結論を書きますが、リプロダクト家具、ジェネリック家具とは脱法ドラッグ(危険ドラッグ)みたいなものです。合法といえば合法かなという感じです。法的な定義がないからです。
※コメント欄で指摘がありました、合法という表記は誤解があるため訂正してお詫びします。危険ドラッグには法律上問題のある成分が入っていることがあります。
ようは法にさえ触れてなければ何でもいいだろうという代物です。(実際には法に触れているケースもあります。)
訴訟を起こされたら逃げればOKという考えもあります。
相手の弱い部分を突き自己の利益のみ追及しているものですので、リプロダクト品・ジェネリック家具には非常に多くの問題点があります。
①商標権の侵害をしている販売です
例えばイームズシェルチェアに代表されるようなイームズ夫妻のリプロダクト品ですが、普通に商標権の侵害です。
なぜなら”EAMES”および”イームズ”はハーマンミラー社が商標を持っているからです。
それを製品名や製品の説明やセールスに使うことは商標の無断利用です。
つまり、ヴィ〇ンやエル〇スといったコピー品のバッグと同じということです。
違法な売り方の家具です。(鞄自体に商標が入る点は家具とは大きく違います。)
だからイームズのリプロダクトは合法なんて評価は完全に間違いです。
合法だし問題のないものだと信じていた人たちには衝撃でしょうね。
あなたはリプロダクトのヴィ〇ンの鞄を購入するのですか?
②意匠権が切れているというかそもそも登録されていない
「日本の意匠法では意匠権は登録後20年で切れるから」という説明はミスリードです。
海外の家具デザインはそもそも日本で意匠登録されていないことがほとんどです。
意匠権が切れているというより”意匠権が無い”が正しいでしょうか。
だから20年前のデザインかどうかなんて関係ありません。マジス社のチェアワンのように2004年にデザインされた椅子がリプロダクトとして販売されているケースもありますし、最新の家具もリプロダクトとして販売されています。(私が見た中で一番新しいのは2011年に発売したヴィトラ社のベジタル。)
意匠権で守られていないなら真似されてもしょうがないという考えは乱暴です。
保護されづらいから困っているんです。
それに立体商標での保護はやろうと思ってできることではありません。
Yチェアは相当すごい事例です。
考えてみてください?
あなたの書いた絵がありまして、たまたまブログか何かで公開したとします。
それがいつの間にかどこかの企業がその絵を勝手に利用してお金を稼いで自社のものとして活用していたのを見たらどう思いますか?
そうですよね、その企業にあなたは文句を言いますよね。
でも企業側はこう言うわけですよ、「なにそれ、その絵があなたが最初に書いたという証拠があるの?あったとしても、その絵はなにか保護されているものなの?」そう言われるわけです。
あなたはどうしますか?
この状態です。
訴えればいいじゃんと思うでしょうが訴えて済む話なら簡単です。
追記:ハーグ協定のジュネーブ改正協定を利用して国際意匠登録をすることも出来ますが2014年からとなります。
③不正競争取引防止法に関わってくる
似たものを他社が販売しているということは、不正競争取引防止法に引っかかる可能性があります。そりゃあそうですよね。
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/201909_unfaircompetitiontextrev.pdf
※2020/10/20 上の不正競争防止法の説明リンクが死んでいたので新しいリンクを貼りなおしました。
特に「正規品に忠実」や「正規品は存在しない」、「オリジナルよりクオリティが高い」といった正規品を貶める販売方法は問題です。
裁判しないとどうしようもないですけど。
④写真の著作権問題
よくデザイナーの写真を販売ページに使っているのを見ますが、写真が著作権で保護されている場合があります。
写真の著作権は”著作者の死後50年間保護”されますから、無断で利用することは著作権の侵害です。
デザイナーの写真やオリジナルデザインの写真は著作権が残っている場合があります。
実際、正規販売をしている私が写真利用の際に著作権を理由に使用の制限をされることがあります。
⑤オリジナルデザイン自体の価値を貶める
せっかく優れたデザインの名作家具が、粗悪な模倣品のクオリティのせいで悪い評判が広まります。
『イームズの椅子がすぐ壊れた』なんてSNSやブログで発言している人を見ますが、それがリプロダクト家具だったりするわけです。
特に家具の修理をしている会社が「イームズラウンジチェアの修理をしました」なんて載せているのを見るとほぼ模倣品です。そりゃそうですよね、正規品のイームズラウンジチェアを正規のところで買っていたらそこで対応しますから。
正規品の家具はそう簡単に壊れませんし、壊れても保証がありますので大丈夫です。
低品質な家具により、正規品の価値すらも貶められてしまいます。
⑥正規メーカーはライセンス料を払っている
デザイナー自体は亡くなっていても、その会社が残っていることもあり、また子孫が財団を設立してデザインを管理していることがほとんどです。
ヴァーナー・パントンに関しては妻のマリアンヌ・パントンがご存命ですし、パントンのデザインは二人の事務所でしたから特に問題です。
家具の復刻をするにしても、そのオリジナルデザイン自体や図面など所有している子孫側の了承が得られないと復刻品を作ることが出来ません。
そこで正規メーカーはロイヤリティの支払いをしています。
⑦オリジナルをもとに忠実に再現していない
そもそも何がオリジナルデザインかというのがあやふやですが。
ヴィンテージのそれこそ最初に製造されたデザインを元にしているのならどうやってそれを入手してどう真似したのか疑問です。先述の話です。イームズハウスバードなんか絶対に無理ですからね。
実際には正規品が復刻している家具デザインを元にコピーしているだけです。
その証拠に、リプロダクト品のスペックが正規品の復刻品とスペックが同じだったりします。
ですが、正規品メーカーは逆にオリジナルからスペックを変えて販売している場合があります。オリジナルを忠実なら、ヴィンテージのオリジナルのスペックを真似していないといけません。
復刻品を真似して「意匠権が切れている」はひどい話ですね。
⑧人体に問題のないデザインか
正規品は環境に配慮した製造をし、人体に問題のない素材選び塗装を選択し、入念な耐久テストをしています。
厳格な基準によって安心して使用できる家具となっています。
安く作るということは、安く仕上げるということです。果たしてどこまで安全性を追求しているのか分かりません。すぐに壊れることで怪我をする恐れもあります。
⑨保証や修理はできるのか
保証があっても短い期間です。
それに、修理する際にはパーツが用意できないことが多く、修理不能となるケースがほとんどです。あくまで海外で製造されたリプロダクト家具を輸入して販売しているだけです。アフターフォローまでは難しいです。
正規品は長期の保証期間があったり、修理は当然できるようにしています。
⑩価格に根拠がない
あくまで正規品より安い値段設定をしているだけです。
たいした家具じゃなくても、名作をコピーして正規品より安い価格を付けるだけで売れるんですから儲かります。
本来の家具の価格の価値が数千円でも、正規品が10万円だったら3万円と出しておけば買う人がいるんですから。
価値のない物に高いお金を出してコピーを買うのは勿体ない以外の感想が無いです。
バルセロナチェアのコピーなんて某大手家具屋で40万円近くで販売していますからね。
正規品は80万円以上するのでそれに比べて安いというのを売りにしていますが、バルセロナのコピーなんて数万円で売っていますし同じようなもんですから数十万円ボッているわけです。
売ったほうは儲かってしょうがないですよ。価値を知らない情弱向け商売で大企業になりました。
⑪作っている人たちはどんな人?
安く作れるということは、安く作れるような環境と労働があるから出来ることなんです。
健全な労働環境と賃金でしょうか。
そもそもコピーを作って儲けようという輩ですから、この世界でどういった存在かはなんとなくでも想像が付くと思います。
⑫お金はどこに行く?
模倣品を作る業者が真っ当な会社だとは思えません。
稼いで得たお金はどこにどうやったところに流れているでしょうか?
ブランド品のコピー品はマフィアや暴力団と言った輩の活動資金になっていると聞きますね。
正規品メーカーは利益を技術投資やデザイナーの育成といった未来へつながる部分へ支払いをしています。
⑬著作物かどうか
この方が説明している内容がわかりやすいです。さすがプロ。
リンクの弁理士さんが説明している状況と現在とで状況が変わったことがあります。
それは2016年にEUでは家具は著作物だと認定されたことです。
つまり、意匠権など関係なくデザイナーの死後70年間保護されています。
これにより家具の写真撮影もドローイングも著作権が適応されるという厳しいものです。
だから余計にデザイン後進国である日本やアジアで模倣品を売りたいんですよ。デザインについて理解がある国ではもう模倣品が売れないからです。
⑭リプロダクトが生まれた経緯 ※追記
いま日本で流通しているリプロダクト品は、正規メーカーを騙してコピーをしたケースがあります。
詳しいくことは↓に書いたので参考にしてください。
以上がリプロダクト家具、ジェネリック家具の問題点です。
あとはみなさんが良識をもって適切な判断をしていただけると幸いです。
そしてこの問題の解決には正当な市場が必要です。
皆さんが価値あるものを価値のあるものとして評価する社会なら模倣品は駆逐されます。
正規品と模倣品、どちらを手に入れますか?
最後に私の考えを書きます。
以上は問題点ですが、私は意義や納得できる理由、価値があるのならば話は別だと思います。
ただの真似は当然利益のためのみなので無しです。
コメント
危険ドラッグを合法というのは問題でしょう
確かに合法との表記は誤解を招きます。
ご指摘の通り文章にて注釈を入れます。
ありがとうございます。