2013年からハーマンミラー社より新発売した「イームズウッドシェルチェア」は、今までプラスチックのイメージしかなかったシェルチェアを一新し、クラフトな空間へのニーズへも応えられるようになりました。
最新のイームズ家具ではありますが、実はこのイームズウッドシェルチェアこそイームズ夫妻が最初に作りたかったシェルチェアなんです。
彼らはシェルチェアを当初からプラスチック(GFRP)で作る予定ではありませんでした。
60年以上の時を経て実現したシェルチェア
プロダクトストーリー
イームズウッドシェルチェアの本物の単一シェルは、ウッドベニアを複雑な曲線を持つ形に成型できる独自の3D成型技術を用いて製造されています。新技術により、イームズ夫妻の長年の夢であったウッド素材のシェルチェアが実現しました。
Herman Miller Japan HP http://www.hermanmiller.co.jp/products/seating/multi-use-guest-chairs/eames-molded-wood-chairs.html
ハーマンミラーのプロダクトストーリーには”長年の夢であった”と書かれていますが、そうなんです。
このウッドシェルチェアは製品としては新発売ですが、構想は随分前からあったんですよ。
それがこの写真です。
これこそが70年ほど前のイームズウッドシェルチェアです。そしてその実験的作品です。
紹介文には実験的な成型合板の椅子と書いてあります。molded-plywood chairとも。
シェルの形を作るために試行錯誤した感じですね。
この時イームズが実現したかったのは、プライウッド素材での曲線を活かした一体成型の椅子だったんです。理想はまさにシェルチェアのまま素材がプライウッドでした。
しかしプライウッドで曲線を描くと割れやすくなるので、中心にスリットを入れたり穴をあけたり工夫をしています。
一番左なんかは黒いゴムのショックマウントも付いていて、シェルチェアの様相を呈しています。
が、当時の技術ではこれが限界でした。このデザインでも製品化となると強度不足といった問題が多く発売できるようなものではありませんでした。
その後イームズは背もたれと座面がわかれたプライウッドチェアを製品化します。
背と座の一体成型の椅子自体は諦めてはいなかったのですが、助言があったことで当時まだ最新技術だったガラス繊維いり強化プラスチック(GFRP)で実現しました。
それがあの有名なイームズシェルチェアです。
そして時が流れてとうとう2013年にハーマンミラー社とイームズオフィスの共同により、3D成形技術を利用することでイームズ夫妻の夢であったらプライウッド一体成型のシェルチェアが実現したわけです。
時を経て夢の椅子がとうとう出来上がったというのはロマンです。
して3D成形技術というのはどんなものか。
それがこれですね。
これは実際に私がハーマンミラー米国工場に行ったときに見学してきた合板のサンプルカットです。
ご覧のように丸く盛り上がりがありますよね。これが3D合板技術です。
プライウッド一体成型の椅子自体は世の中にいくらでも存在するのですが、シェルチェアのような反り返りもある複雑な曲線を再現するためには普通にプライウッド成形するだけでは作ることが出来ません。
そこでべニア自体に工夫をすることで見事に半球状にカーブを描いています。
たぶん裏側は見せない方が良いと思うのでお見せしません。
このべニアへの加工が3D成形技術で、あの見事なシェルチェアの曲線を再現した椅子を作ることが出来ているんです。
この技術を使ったことでこれほどまでシェルチェアシェルチェアした曲線と強度を再現することができました。耐荷重も138kgまでOKという頑丈さと保証5年間も実現しています。
通常の成形合板の作り方をものすごく簡単に説明すると、「薄くスライスした木材を接着剤とともに積層にして圧着」で完成です。簡単すぎる雑な説明です。
その普通の合板とは造りも違いますし、手間も違いますので、それがウッドシェルチェアの価格に反映されるわけですね。
イームズプラスチックシェルチェアに比べて高額になるのも納得です。
それと、価格の比較をするのでしたら他の有名デザイナーの木の椅子と比べてみてください。それに比べるとウッドシェルチェアは特別高くはありません。
すでにイームズ夫妻は亡くなっていますが、こうして彼らの意思を継ぐ者たちにより夢が実現されるわけですね。
格好良いシェルチェアです。
私が実物を使ってウッドシェルチェアの座り心地や細部を映しています。
コメント