イームズシェルチェアは40年代後半に生まれた名作椅子ですが、この時点で腰椎(ランバー)部分が若干内側にカーブをしており、人が座ると人間の背骨の逆S字が保ちやすいようになっています。
背骨の形を計算してデザインをしたのではありません。
イームズシェルチェアの形はその逆で「人間の形」から作られています。
シェルチェアの形がどうしてこうなったか
もともとイームズ夫妻は成形合板(プライウッド)を使った一体成型の椅子を作るのが目標でした。
それが当時は製品としては実現しなかったため、素材をガラス繊維入り強化プラスチックに変えて製作したのがイームズシェルチェアです。
最初はアームシェルのみ作られました。
肘掛をつけて角ばらずに曲面で構成されたボディは耐久性のためです。
のちに作られたサイドシェルに比べるとアームシェルは肘掛があることで半円の形状を保ち、背もたれに体重をかけても背もたれがしならず人が座っても大丈夫な強度を持っています。
実際、のちに作られたサイドシェルの最初期製造品はプラスチックが薄く、また背もたれと座面の中央部のカーブが浅いことでしなりが強く破損が起きる可能性がありました。
そのため50年中期からのサイドシェルチェアは形を変え背もたれのカーブを現在のように強くしました。
そしてアームシェルの形状は人体の形に合わせて作られたものです。
当時のシェルチェア製造動画が残っていますのでご覧ください。
様々な体格の人が座り平均をとったのでしょうか。
おかげで腰椎の部分がカーブをしており、人が座った際に姿勢をキープできるようになっています。
まだこの時代は人間工学や座ることと姿勢についての研究は進んでおりませんでしたが、イームズ夫妻は人間の形状から椅子を作り上げたおかげで座り心地だけでなく姿勢的にも優れたデザインとなりました。
椅子を作るうえで、人の形をそのまま測りデザインに落とし込めば最適な形状が出来上がるわけですが、これはプラスチックの一体成型だからこそできた業です。
それ以前の金属や木材の椅子ではやりづらかったことですね。
イームズ夫妻のシェルチェアが後世にまで残っているのは、新しい椅子デザインの幕開けでもあるパイオニアだからです。
のちに日本でこのシェルチェアを参考に国産のFRP製の一体成型の椅子が作られたのですが、デザインはイームズシェルチェアとそっくりでした。
真似したわけではなく、一体成型でデザインを作るとどうしてもこの形になるからだそうです。
つまりイームズ夫妻のシェルチェアは最初から最適を作り上げたわけですね。
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