ヴァーナー・パントンのもっとも有名な椅子と言えばパントンチェア(1967)でしょう。
世界で初めて量産され市販されたプラスチック一体成型の名作椅子としても知られています。
(その前から一体成型のプラスチック製の椅子は存在するのですが何故パントンチェアが最初とされているのかは謎です。背もたれが付いた一体成型の椅子として最初という意味?)
しかし昔から思っているのですが、実際に椅子として使うには問題が多いです。
まず重い。
5kg以上あるので座る時に椅子を後ろに引く時に毎回重たいです。
重心が下にあるのでなおさらです。(下に重心が無いと困りますけど)
繰り返すとなかなか負担に感じます。
そして大きい。
脚の部分が奥行き61cmに幅50cmです。
余白が無くこのサイズはアームチェアより大きいです。
テーブルでこの椅子を並べて使うととにかく場所をとります。
さらに座り心地が悪い。
背もたれも座面もカーブはあれど、のっぺりとしたプラスチック表現なので硬くて柔軟性もありません。
座面も広く大きいです。
正直、パントンチェアは実用性に乏しく使いづらいことこの上ない椅子です。
見た目も野暮ったいので繊細さにも欠けます。
わりと名作椅子という触れ込みで思考停止して良い椅子だ!と評価されがちですが、何をもって名作か、なにが良いのかをよく考える必要はあります。
この椅子はその歴史が評価され名作椅子としての地位があります。
市販され量産された最初のプラスチック一体成型は家具の歴史に名が残ります。
そもそものパントンチェアの発想が「リートフェルトの椅子をプラスチック一体成型にしたら」というものなので、椅子としての目的より思想が強いです。
そのためパントンチェアは”デザイン”というより、もともと”アート”に近い存在です。
パントンのデザインは基本的に生活の問題を解決するためより、素材や色を使い独自解釈の家具や照明を展開することに重きを置いているため不自然なことではありません。
その色使いが後年に大きな影響を与え生活の質を向上させるという役割を担ったのは間違いありませんが。
つまりパントンチェアは思想を達成するために考えられた造形であり、人の姿勢や座り心地を目的に作られたわけではありません。
カンティレバーの一体成型を当時達成するためにはこの形であるべきだったわけです。
もちろんプラスチック一体成型の椅子が生活を向上させるという意識もあったでしょうが、結局求められるプラスチック一体成型の椅子の主流はアウトドア向けのデザイン向けとなり、スタッキングのしやすさ、軽さ、水捌けの良さが求められるようになりました。
プラスチックの一体成型技術自体はスイスのハーマンミラー家具製造工場の技術をそのまま使ったものですからパントン独自開発でもありません。
名作椅子だから椅子としての機能も優れているはずという先入観は捨てて考えるのが良いです。
その椅子が好きなら良いのですが、それと実際に使うかは分けて考えるのが無難です。
好きで使っている人を否定するわけではありませんので誤解はしないでください。
どんな椅子だろうが自分が好きならそれで良しです。
私もパントンチェアは昔からよく知っていますので。
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