– Panton Chair –
デザイナー:Verner Panton
パントンチェアは世界で初めてプラスチック一体成型でデザインされ量産された椅子です。
カンティレバー(片持ち)構造が特徴的ですが、実現までに長い時間と試行錯誤が繰り返されています。
※最近はヴェルナー・パントンではなく、ヴァーナー・パントンとカタカナ表記するようになりました。
パントンチェアの歴史
この椅子の始まりは1955年にヴァーナー・パントン自身が発表した「Sチェア」となっています。
Sチェアはヘリット・トーマス・リートフェルトが1934年にデザインをした「Zig-Zag(ジグザグ)」をパントンらしい発想でリデザインしたものです。素材を成形合板にしています。
そこからさらに自由なデザインを実現するために素材をプラスチックに出来ないか50年代末から試行錯誤を始めます。
1960年にはパントンチェアのプロトタイプが完成します。
ですが、当時の素材と技術力ではこのデザインでないと強度を保つことが出来ませんでした。
彼が理想とする形とは違うため、それを実現できる製造業者を探しますがなかなか見つかりませんでした。
それから1962年に彼はヴィトラ社のフェルバム親子と出会います。
そこで実験を繰り返すことで、1967年にとうとう現在の形であるパントンチェアが出来上がりました。
初期のパントンチェアは素材をガラス繊維入り強化プラスチック(GFRP)製にしていました。
これはイームズシェルチェアの製造技術が活かされています。椅子裏側のカーヴ部分にはフィンという補強が付いていました。
1968年には素材を高硬度発泡ポリウレタンに変更しました。
1970年には別会社がさらに素材を変更して加熱プラスチック射出成型法を利用したルーランSに素材を変更しましたが、時間経過で破損するという問題により1979年に製造が中止します。
そして1983年に再び高硬度発泡ポリウレタンでパントンチェアの製造が再開されます。
一度ルーランSにしたのは、ポリウレタンでの製造は手間がかかるからです。
それから1999年、現在のポリプロピレン製に素材が変更され新型パントンチェアが発売されました。
現在に至る。
ちなみに、初期のFRP素材のパントンチェアは、「パントンチェア クラシック」として受注生産にて販売がされています。
時代と技術の進歩とともにパントンチェアは変わり続けてきました。
一体成型のプラスチックチェアのバイブルとして名作椅子のポジションを確立しています。
ところでパントンチェアにはもう一つ別の話があるんです。
これはヴァーナーの妻マリアンヌ・パントンの関係者から直接聞いた話なのですが、最初パントンチェアはスイスのハーマンミラー社のバーゼル工場で製造を始めたというストーリーです。
イームズシェルチェアの技術を持っている工場ということで量産されたということなのですが、これだと確かに初期のパントンチェアがハーマンミラー社から発売されていた理由がわかりやすくなります。実際にハーマンミラー社では1968年から1979年までFRP素材でのパントンチェアを販売していました。素材もポリウレタンなどに変更せず、最初から製造終了までFRP素材です。
ただこれ、和訳の間違いかもしれないので、ハーマンミラーのバーゼル工場というのが、ヴィトラの工場を指しているのかもしれません。
総合して考えると、パントンチェアの素材の変化などはヨーロッパでの話で、アメリカのハーマンミラー社とは違ったものだとしたら納得できます。
名作家具のストーリーは明確な答えが無いこともあり、断片的な情報を集めて正解に辿りつくというのが楽しくもあります。ピースを集めてパズルを完成させるようです。それが家具業界。
成形合板のカンティレバーの椅子は「パントニックチェア」として1992年に製品化されています。1993年には同じく成形合板を使用した「タタミチェア」をデザインしました。
余談ですが、ヴァーナー・パントンは妻のマリアンヌ・パントンとともに二人で事務所を運営していました。マリアンヌはご存命でヴァーナー・パントンのライセンスを管理しています。
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