– Cesca Chair –
デザイナー:Marcel L Breuer (マルセル・L・ブロイヤー)
チェスカチェアの名称で知られるこの椅子は、カンティレバー(片持ち構造)の椅子の最初の一つです。バウハウスを語るうえでは外せない名作椅子です。
しかしこの椅子のデザインはマルト・スタムであると記憶している人たちも居ますし、資料によってはスタムデザインだとも書かれています。
実際にマルセル・ブロイヤーのデザインに間違いありません。
どうしてこうなっているかというと、それにはカンティレバー構造の椅子の権利問題が関わってきます。
あまりに複雑なデザインストーリー
チェスカチェアはあまりに複雑な事情を抱えた椅子です。
この椅子自体はブロイヤーが1925年より始めたスチール素材を使った家具デザインの一つです。有名なクラブB3チェア(ワシリーチェア)のようにスチール(ニッケルメッキ鋼管)を曲げてデザインしたものです。
当時として画期的な構造がこのカンティレバーです。後脚だけで支える奇抜なデザインです。
それがチェスカの原型となった上画像のサイドチェアB32(もしくはL33)です。
この椅子のデザインは1928~1929年説があり、いずれにせよマルト・スタムやミース・ファン・デル・ローエのカンティレバー椅子より年代が遅いです。両方とも1927年に発表されています。
こうしたことからスタムとブロイヤーの間で権利の主張がぶつかって裁判に発展したということなのですが、実際にはもっともっと複雑です。
これだとどうしてミースが関わっていないのか?という疑問が生まれますからね。
まず、ブロイヤーは自分のデザインを製造販売するための会社を1927年ぐらいに立ち上げます。
でも事業がうまくいかなくて会社は残して自身は退任します。
その後にトーネット社とブロイヤーは契約をして自身の家具を製造販売をします。
トーネット社はこの為にスチール家具部門を設立しました。ここで今のチェスカチェアが出来上がります。
が、ここでブロイヤー自身が設立した会社から損害賠償請求がトーネット社にありました。
ブロイヤーが設立した会社はスタムと契約しており、ブロイヤーのカンティレバー構造は権利を侵害していると訴訟を開始したんです。
そこで裁判となります。
ブロイヤー側はスタムとの相違を主張しますが裁判の結果は”ブロイヤーの製品はスタムの模倣である”というものでした。無慈悲。
この裁判ではウォルター・グロピウスもブロイヤー側の有利に働く証言もしていましたが裁判官は認めませんでした。
この裁判後トーネット社はブロイヤーの椅子にスタムのクレジットを入れるようになりました。
この為、ある時期までチェスカチェアがスタムのデザインとなっていたのはこういった理由からです。※この記事の最後に追記があります
日本では1971年に開催されたバウハウス展でチェスカチェアはマルト・スタムのデザインとして紹介されたためにチェスカ=スタムという認識をする人もいるわけですし、その資料を基とした情報だとチェスカとブロイヤーが結びつきません。
ブロイヤーは1968年以降は米国のノル(Knoll)社と契約し製造販売をするようにしています。
どうです、このややこしさ。私はざっと書いただけなのでわかりづらかったと思います。
このスタム×ブロイヤー話題を超詳しく書いている資料があるんです。
それが一般の書籍じゃなくて10年ぐらい前のKnollの店舗用のカタログなんですよ。
もう驚くほどの詳しさなので当時のことを体験した人が書いているんじゃないかと思うぐらいですし事実そうかもしれません。さすがに丸写しできないのでここでは書きだしできませんけど。
こういう時のためカタログも捨てずにとっておきます。貴重な情報です。
だからミースは特にこのカンティレバー問題に関わっていないんです。ミースが訴訟したとかそういった情報は無いみたいです。
(ブロイヤーの娘??)
ブロイヤーによると、カンティレバー構造自体はお互いがデザインする前にスタムに直接話したことがあるそうです。しかし裁判上はスタムが訴訟しました。事実は当事者のみが知る。
ハッキリしている事実として、今現在もブロイヤーの家具は残っていますがスタムの家具は残っていないということです。スタムは裁判から50年後のインタビューでこの問題については話したくないとコメントを残しています。
あとチェアスカチェアのチェスカは娘の名前から付けられています。
娘がFrancescaなのでCesca Chairです。
現在正規品はトーネット社とノル社の二つがあります。でも米国Knollでは製造していません。Knoll studioでライセンス製造をしています。もうここもややこしい状態です。日本は両方とも正規に輸入販売されています。
何から何まで複雑、それがチェスカチェア。
座り心地ですが、しっかりしていて籐張りの座面が心地良いです。ミースのレザー張りのカンティレバーより安定感がありますのでダイニングチェアとしても使いやすいです。
あと最初の写真の場所は埼玉県立近代美術館です。
2022/8/13追記
現在トーネット社のチェスカチェアはデザイナーがマルト・スタムになっています。
見逃していました。
コメント
スタムの椅子は現在も販売されていますよね?
スタムの椅子は現在も販売されているのですか?
その辺私は詳しく知りませんでした・・・
リプロ品みたいなのなら見たことあるのですが、正規で製造されている物があるかまではわかりませんでした。勉強不足ですみません。