このヴィンテージのイームズシェルチェアは長年の仕様によりウレタンが硬化して変形し、張地がヘタってしまい異臭がするようになっています。ウレタンもボロボロです。汚いですしこれに座るとなると抵抗があります・・・
と、このようにお持ちのイームズシェルチェアの生地やウレタンがダメになったなどで、また新たに生地の張替えをしたいという要望が少なからずあります。イームズシェルチェアの張替えが出来たら良いですよね?
でもハーマンミラー公式ではそうした張替え依頼を受けていることはありません。私もハーマンミラー正規販売店をやっていますのでよく分かっています。
インターネットで「イームズ 張替え」のようなキーワードで検索をすると、シェルチェアの張替えをしているという業者がいくつか出てくると思います。
長文ですが読む価値あります。
果たしてシェルチェアの張替えはどこを重視して依頼すべきかお伝えしますね。
公式でシェルチェアの張替えをしていない以上、各々でイームズシェルチェアの張替えをしているということになります。
椅子・ソファ張替え工房が直接依頼を受けているケースもありますし、どこかのお店がうけている場合もあります。お店の場合は自分たちで張り替えることはしませんから、どこかの張替え工房に出しているだけです。
値段で選ぶのは感心しません。なぜならクオリティに差がものすごくあるからです。
まず、シェルチェアのような曲面にシワなくきれいに生地が張れるかどうか職人の腕が問われます。
かなり慣れてコツを分かっていないと難しい技術です。
上の画像は私が依頼している職人さんの技術です。柄合わせまでしっかりやっています。
そして最重要なのがシェルチェアの縁についているモール(プラスチックエッジ)と生地を縫い合わせるかです。
モールを縫うとは写真の矢印の部分です。モールはシェル本体と生地のつなぎ目を隠す重要なパーツです。
ハーマンミラー社の新品の状態では、これを写真のように生地とモールを繫ぎ合わせて縫っています。
ですが、これを張り替えるとなると、モールを再度縫うのはあまりに難しい技術のため、出来る業者は日本にほぼありません。
※例外は後述します。
だから、シェルチェアの張替えとなるとモールの部分はシェルチェアに接着剤で固定するのが一般的です。
大抵の場合は張り替え依頼をしてもモールを接着されます。
しかし、モールを接着するのはお勧めしません。
理由は二つあります。
一つ目はモールを接着しても接着剤が剥がれてきてしまうことがあるからです。
短いと数年も持たずに起きることです。他で接着されたシェルチェアの持ち込みで剥がれてしまっているのを私は何度見たことか・・・
せっかく張り替えた生地が大丈夫でも、モールの方が先にダメになってしまいます。
たまに電話で『モール接着で張り替えたシェルチェアのモール部分が剥がれてきたので縫いなおしできないか』という問い合わせが私に入ります。
話を聞くと張替えしてからそんなに期間も経っていないです。本人もせっかく良い生地だったのに・・・と後悔していたりします。
まあ修理自体は接着剤を流し込んで再接着するだけですから出来るのですが、その対応もなんか安っぽいですけど、問題はそのあとです。
二つ目が肝心です。
それはモールを接着すると次の張替えが出来なくなるかもしれません。
接着してあるモールは次回張替えの際に再利用が出来なくなるケースがあります。
さらに、シェルチェア部分に接着剤が残ってしまうので、仮に次に綺麗に張替えできたとしても、モールの縁から接着剤の残りが見えるようになってしまうので不格好です。
これは剥がすのが大変なんですよこれ。
私もモールを接着されたシェルチェアの張り替えを何度も受けていますが、接着剤の残りが気になってしょうがないです。剥がせないですしもうしょうがないのでそのままです。
それに、せっかく良い生地に張り替えてもモール自体もヴィンテージ品ですから、生地よりウレタンよりモールが先に素材の限界が来てしまうこともあります。これも問題ですね。
モール再利用で張替えをして一見新品になっても、モールが先に耐久性の限界が来てベタついてくることがあります。
ありませんか?モールがべたべたしているの。あれは劣化してしまっているので元に戻りません。生地やウレタンだけ新品にしても、モールがダメになってしまっているのならもったいないです。
私も昔モールを再利用していたのでわかっていますが、後悔したのは高い生地でシェルチェアの張り替えをしたのに、再利用したモールがベタベタして劣化してしまった時です。
しまったと思いました。確かにすでに数十年使用したプラスチックモールですから、それは確かに素材の限界が近いですよね。
モールの新品に交換をしたほうがそれだけ長持ちするようになりますから推奨しています。逆に良い生地でモールを新品にしないのは劣化を考えるとやらないほうが良いです。
ということで、既存のモールをそのまま接着するシェルチェアの張替えはお薦めしません。
ただ、安いだとか、納期が早いだとか、次の張替えなんか良いということでクオリティを無視するなら構わないですよ。
その辺は要望に合わせてですよね。
だからイームズシェルチェアの張替えを依頼する前に必ず相手に「モールは接着かどうか」「モールの新品があるか」確認してください。
どうせ相手は接着でも大丈夫とか言うんでしょうが、大丈夫じゃないから私も書いているんですよ。接着されたシェルチェアを持ち込みされて困ったことをいくつも経験しました。(困るのはお客さんの方ですけどね)
それに、納期や価格優先でモール接着にするのはそれはそれで良いことなのですが、そしたら張替え工房に直接依頼した方がもっと安いのでそっちの方が良いですよ。わざわざ取次するだけの存在にマージンを払う必要はないです。
マハラムなど良い生地を使った場合、生地も安くもないものなのにそこにモールを接着なんてもったいなさ過ぎます。
しかもモール使いまわしは先述の通りモールの劣化が早いのでやめたほうが良いです。
ところで、どうして私がこんなことを言えるかですが・・・
私はモール部分を縫い合わせたイームズシェルチェアの張替えをしているからです。
こちらをご覧ください。ハリス・ツイードという難しいウール生地でもこのクオリティでの張替です。
しかも、新品のモールまで用意できます。このモール部分は新品にして縫い合わせたものです。これはもうなかなか真似できません。
イームズシェルチェアの張替えをしようにも、モール部分がダメになっていたらそもそも張替え不可ですし、プラスチックですからせっかく張り替えてもモールが劣化してダメになってしまうことがあります。
そこをシェルチェアのウレタンを新品に交換して、生地も新品となり、さらにモールまで新品にしてしまえばもう完璧です。
これで長く使うことが出来ます。
こうしたことをしているので、モールを接着したシェルチェアが持ち込まれることがたまにあります。それで接着での張替がうまくいっていないケースをたくさん見てきています。
先述のようにモールの接着が外れたから縫い合わせてほしいなんて言われることもあるのですがもう無理です。モールだけ都合よく縫い合わせるなんてことは出来ないので全張替えです。
ただ、うちは納期がすごくかかります。それに安さを売りにしていません。
クオリティをとるか、安さと納期をとるかです。
シェルチェアだけじゃなく、イームズソファコンパクトの張替えもたまに受けています。
こちらは張替えだけじゃなく、座面裏のフックを用意できるかどうかが大切です。
今まで何度となく対応してきました。
というより、イームズ関係の家具はなんでも修理や張替えはいろいろやってきましたね。
その辺は私がハーマンミラー正規販売店をやっていて、ヴィンテージから新品まで数多くの事例を見て知識を得ているので活かせています。イームズの家具の知識もないのでは何にもできませんからね。
その辺はハーマンミラーの正規販売店をやっているとかじゃないと。
だって新品の情報も修理などにもかかわってきます。そうじゃないとイームズの家具のことをよく知りもしないのに語っているようなものです。
やっぱり製品のことを詳しく理解するためには工場に行ったり、歴史なども分かっていたほうが良いです。
ということで、シェルチェアの張り替えをしたい人は以上のことをよく読んで判断をしてくださいね。
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