ある家具を別のデザイナーがデザインを改良して発表することがあります。
ただの模倣ではなく、オリジナル家具をより良くするためにデザインを変えた家具です。
例えばそれは「イームズプライウッドチェア」と「SE68」です。
似ているけど大きな違いがある二脚
「イームズプライウッドチェア」は間違いなく20世紀を代表するモダンデザインです。
チャールズ&レイ・イームズ夫妻により1946年に製品としてデザインされ以後ハーマンミラー社によって今なお製造販売を続けられています。
この美しい椅子は形を変えず現代でも輝き続けています。
それから1951年にドイツにてエゴン・アイアーマンというデザイナーがこの「SE68」をデザインして発売しました。
ドイツモダンデザインを代表するクラシックな椅子のひとつです。
プライウッドによる有機的な背面・座面とスチールパイプの組み合わせは、イームズ夫妻の影響をうけており当時のドイツでは先駆的な椅子でした。
65年以上経った今でも国内外の多数の公共施設で使用されています。
左がイームズプライウッドチェア、右がアイアーマンのSE68です。
比べるとそっくりなのがわかります。
でも、アイアーマンはただ単にイームズのデザインを真似したのではないです。
全体的なフォルムも異なりますが大きな違いはここです。
SE68は合板を貫通するようにフレームとネジ留をしているため、背と座の表面に鋲が見えます。
座面や背もたれにネジ接合部の金属部分が見えますよね。
かたやイームズプライウッドチェアは合板をネジで貫通しないように、ナットを埋め込んだゴムのショックマウントを接着したうえでフレームとネジ留をしています。
このネジの留め方が大きな違いです。
アイアーマンはイームズのプライウッドチェアの接着式のショックマウント方式をある種の弱点として見たことで、より製品として堅牢にするために合板を貫通してフレームとネジ留をするようにしました。
これにより縦にも横にも荷重が強くなることで公共施設でも使われやすくなりました。
ではイームズプライウッドチェアがダメかというとそうではないです。
そもそも、合板を貫通してネジ留をするのはずっと以前から考えられていた方法です。
でもそうすると椅子の表面に鋲が見えてしまい、それを隠せないかとイームズ夫妻が考えた方法がショックマウントを接着するという手法です。
おかげで合板の木目が一枚で美しく強調されることで見た目にも作品として完成されています。
さらにショックマウントの弾力により背もたれが柔らかく動くことで座り心地が向上しました。
ショックマウントが外れる問題に関してはその都度修理がしやすいというメリットがあり、合板まで致命的に壊れるような荷重がかかった時にショックマウントが外れることでダメージを分散します。
もう一度見比べるとイームズ夫妻の椅子は美しさを感じ、アイアーマンの椅子は工業製品感を感じます。
どちらが良い悪いではなく、この場合アイアーマンの椅子はインダストリアルなものを好まれる不特定多数の人が行きかう公共施設で好まれ、イームズ夫妻のものは住宅や商業空間で好まれることになります。(アイアーマンも住宅で好まれますけど)
やはりイームズ夫妻のプライウッドチェアのほうが高級感を感じます。
(SE42 https://metrocs.jp/ud/pkg/metrocs/img/designers/97/itm2.jpg)
ところで遡るとアイアーマンは1942年には「SE42」というこんな椅子もデザインをしています。
『あれ?イームズ夫妻より早いんじゃないの?』と思われるかもしれませんが、1940年以前にチャールズ・イームズとエーロ・サーリネンの共作でこんなプライウッドチェアを手掛けています。
これがチャールズとエーロの共作です。
ずいぶん以前からプライウッドチェアの原型はありました。
この実験的な椅子は椅子の表面に鋲が見えます。後のイームズプライウッドチェアではネジを貫通しないように考えられたわけです。
なんとなくポール・ケアホルムのPK0っぽいですよね、たぶんここから来ています。
デザイナーが違えど一つのデザインを作り変えたりして面白いですね。
辿っていくと歴史が垣間見えて楽しいです。
”冒頭でより良くするために”と書きましたが、SE68はイームズプライウッドチェアをより良くしたものじゃないですね、プライウッドチェアは劣ってないですし。
お互い別物として異なった分野で活躍した椅子となりました。
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