これはマルセル・ブロイヤーのチェスカチェアです。(Knoll Studio製)
1929年に同氏がデザインしてリリースしました。
現在はTHONET(トーネット)社とKnoll(ノル)社の二つが正規品として存在します。
こういった椅子の形状を”カンティレバー”と呼びます。もしくは”カンチレバー”。英語で書くとCantilever。
”片持ち構造”を意味します。片側だけで支える構造のことです。
ご覧のとおり片側だけでうまくバランスをとり、人が座っても安定感のある構造になっているのが特徴です。
このカンティレバー構造の椅子は誰が最初にデザインしたかというと”マルト・スタム”というオランダ人デザイナーだというのが決定事項です。
先述のブロイヤーではありません。
が、ブロイヤーとスタムの間で一悶着ありました。
製品としてチェスカチェアが最初かもしれません、でもその前にマルト・スタムがカンティレバーの椅子を作っていました。
1927年にドイツ工作連盟が、ミース・ファン・デル・ローエに依頼してシュッツガルト近郊に集合住宅が建設されました。
その設計にスタムも参加し、ガス管と金具のみで作った椅子を置いたんです。
それがこれです。ガスパイプチェアという名称がつけられています。
見事にガス管のみです。
ロッテルダムの自宅の妻のために考案されたとか言われています。
これにより、このカンティレバー構造が誰に著作権があるのかでブロイヤーとスタムとの間で裁判が起きました。
双方とも自分だと主張しますが、ドイツ連邦裁判所はスタムの著作物であるという判決を下さしました。
そんなことがあり、カンティレバー構造の椅子はマルト・スタムがデザインしたものということになったんです。
話が少しそれるのですが、”著作物”だというのが珍しいです。工業製品ですし意外な判決が出ていますが、プロダクト(芸術の分野として扱われているみたいですけど)で著作物と認められた最初のケースらしいです。
意匠物や著作物やあやふやになっている人を見かけますが、全然別物ですから曖昧に書いちゃダメですよ。
著作権が切れてるからとか説明しているのを見ますけど、そんな家具があったら教えてほしいぐらいです。意味がわからなさ過ぎます。
将来はそうなるかもしれませんけどね、家具に著作権が適応されるのは。
ヨーロッパでは昨年からそうなっていますし。
話は戻りまして、製品として最初なのはブロイヤーのチェスカチェアに違いないので、カンティレバーの椅子としてファーストの存在がチェスカだというのは正しいと思います。私は。
スタムのガスパイプチェアは実験的なものにみえますし、実際にこれを製品として流通させるのはあまりに現実的ではありません。座れないでしょうし、強度が不足しているように見えます。
チェスカチェアは製品として完成しています。
ブロイヤーが、スタムのガスパイプチェアを見て真似したという判決をされているのかしれませんけど、その辺の深くまでは当事者じゃないとわかりません。
ブロイヤーは後のインタビューで「お互いが作って裁判が判断した」といような言葉を残しております。
けれども、スチールパイプを曲げた構造の椅子自体ブロイヤーは1926年の時点で完成させています。ネストテーブルなら1925年です。
だから自然と同じようなものが作られたとも考えられます。
それに、カンティレバー構造自体は既に家具以外の製品で存在していたので、そちらを参考にしたとも言えます。椅子としては最初のカンティレバーということです。
こんな話があったのですが、それはそれとして、チェスカチェアは金属の名作椅子として、バウハウスの素材と機能を求めた理念が見事に体現された傑作には違いないです。
↓追記しました。ことの真相はこうです。本記事で書いた内容と違う部分があります。スタムも製品化されていました。
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