ハーマンミラー社が2013年に発売※したイームズファイバーグラスチェアは、1948年にイームズ夫妻が手掛けたオリジナルFRP製シェルチェアを正式に復刻製品化したものです。※日本は2014年に発売
オリジナルデザインを踏襲しつつ、現代の環境に合わせてリサイクル可能な素材を使うなど、デザインををただ復刻するだけでなくアップデートされた名作椅子です。
その歴史と特徴についてお伝えします。
>>イームズの評価とブームの話から歴史とイームズデザインを一挙紹介
イームズシェルチェアの歴史とファイバーグラスシェルチェアが復刻するまで
イームズ夫妻がFRP素材を使いシェルチェアを完成させたのは1948年のことです。
1949年には米国のゼニス社にて製造を開始しハーマンミラー社が発売を始めました。
1950年頃にはゼニス社はハーマンミラー社に買収されますので、以降はハーマンミラー社のラベルorエンボスのみつけて販売が続けられました。
仕様の変更を繰り返しながらイームズシェルチェアはロングセラーとなりますが1980年の終わりには製造を終了します。
理由は「FRPは燃やすと炭素が出るだけだけでなくリサイクルができない素材だから環境に悪い」というものでした。
実は売れなくなったというのも理由にあるのかもしれません。
製造が終了してからも在庫がある限りはシェルチェアの販売が続けられたため1990年以降も販売は続けられました。
それからしばらくハーマンミラー社はシェルチェアの製造をしておらず、ヴィトラ社が復刻をしたポリプロピレン製のシェルチェアの販売のみしていました。
>>ポリプロピレン製の「イームズプラスチックチェア」が生まれた理由と歴史
ハーマンミラー社が初めてシェルチェアを復刻製造をしたのは2009-10年頃のことです。
この時にポリプロピレン製のイームズシェルチェアを正規復刻し、ヴィトラ製の販売をやめてハーマンミラー製造のシェルチェアの販売に切り替えました。
2012年にプライウッド(成形合板)製のイームズウッドシェルチェアを製品化しました。
これは復刻ではなく、イームズ夫妻の長年の夢であるプライウッド一体成型のシェルチェアを現代の技術力を持って製品として作り上げた新製品です。
>>イームズ夫妻の目標であった「イームズウッドシェルチェア」と3D成形技術とは
そして2013年にとうとうFRP素材のイームズシェルチェアを製品化させました。
当時と同じ素材でそのまま復刻したわけではなく素材を現代に合わせて改良されています。
オリジナルのFRP製シェルチェアはガラス繊維が入ったプラスチックだったのに対して、復刻されたFRP製シェルチェアはモノマーフリー樹脂を繊維状に入れており、リサイクルができるFRPとなっています。
ガラス繊維が入ったFRPの強度はそのままに環境に配慮された素材になっています。
さらに当時の製造方法を再現しています。
当時はシェルチェアの型を作り、ほぼすべてを手作業で製造していました。
復刻されたファイバーグラスチェアもファイバーをシェルの形に成形すること自体はドライバインダー処理による真空成型を採用していますが、その後は当時と同じように型を使いほぼ手作業で製造をしています。
ポリプロピレン製シェルチェアのインジェクション方式とは違い手間のかかる製法です。
ショックマウント部分は改良をされています。
前後で大きさを変えて、より荷重のかかる前側のショックマウントを大きくしています。
さらに電気的接着(接着剤と接着面の分子的結合)をしています。
これらはオリジナルのシェルチェアではされていなかった製法です。
そうした伝統的な製法と、現代の環境に配慮をした優れた椅子となっています。
イームズファイバーグラスシェルチェアはイームズ夫妻のフィロソフィーを体現しつつ、ハーマンミラー社の企業努力により作られたまさに伝統的な名作椅子です。
(これはヴィンテージ品の写真です)
ただ問題は素材の調達が簡単ではなく、製造にも非常に手間がかかるため安定した量産体制が続いていません。
日本でも2014年から発売されて以降、常にどれかのカラーが製造をストップしたり、ファイバーグラスチェア自体の製造が止まることもありました。
それがコロナ以降は一層顕著となり製造がほとんど止まっています。
それだけ手間も時間もコストもかかるものですが、やはりハーマンミラー社を作り上げた歴史的なデザインの一つでもあるため製造を終了させることはなく継続されています。
2014年製造当初のイームズファイバーグラスチェアの座面にはショックマウントの位置にファイバーの抜け?がありました。
ですが製造を繰り返していくうちに現在はそういった状態は観られなくなりました。
またカラーによってファイバーの含有量が違います。
ヴィンテージのファイバーグラスシェルチェアと復刻品のファイバーグラスシェルチェアの見分け方ですが、復刻品は裏側に製造年月日のシールが貼られていますし、EAMES OFFICEのエンボスも入っていますので簡単にわかります。
以上がハーマンミラー社が正規復刻をしたイームズファイバーグラスチェアの歴史と特徴です。
新品の家具でありながらもクラシックテイストがあり、量産品でありながらも職人的な技術で作られている珍しい椅子です。
ショックマウントの修理については保証5年を過ぎてからはメーカー修理が難しくなってしまうため、ショックマウントの修理ができるような店舗で購入することをお勧めします。
そうしないと保証が切れてからショックマウントが外れると高額な修理代となってしまうからです。
イームズ夫妻のモダンデザインを求める方にはお勧めの素材です。
ポリプロピレン製とプライウッド製、好みの素材を選んでください。
コメント