椅子は4本脚が普通ですが、古くからある有名デザインの椅子の脚が3本脚です。
アルヴァ・アアルトのスツール、アーネ・ヤコブセンの初期アントチェア、ハンス・J・ウェグナーの各種チェアなどなど特に北欧のデザインに多く見られます。
イームズも40年代まではプライウッド製3本脚の椅子をデザインしていました。
なぜ3本脚の椅子があり、どうして今は4本脚が主流なのでしょうか。
3本脚の椅子デザインには理由があります
3本脚の椅子にするにはそれだけの意味がありました。
これらの理由で3本脚の椅子が作られました。
椅子の脚は3本のほうが安定する
椅子の脚は4本が普通ですが、実は3本脚のほうが椅子は安定します。
3本脚は脚が少ないので一見すると不安定のようですが、椅子を円と考えると3本脚は平面を作ることができます。
4本脚の場合は平面ではなく曲面ができてしまいます。
脚が1本だと点、脚が2本でも1次元、脚が3本だと2次元、脚が4本だと3次元が作れます。
この文章だけの表現で伝わるか難しいですが、自立する物体としては3本脚のほうが平面を作れるため安定するということです。
カメラの3脚はなぜ3脚かということですね。
そのため3本脚の椅子はどんな床においてもガタツキがありません。
(ガタツキがないだけで椅子自体は斜めにはなりますが)
人間の足の本数を足すと5本になるから
3本脚の椅子に人間が椅子に座るとその人の足が加算されて合計5本の脚が地面につくことになります。
そのため椅子に座った状態なら3本脚でも充分に安定するという理論です。
また前脚が1本だと人間の脚の邪魔にならず座りやすいです。
デザイン上の都合
脚が少ないほうがその分椅子が狭くなるため収納力が増します。
前脚が1本の椅子は円形のテーブルにぐるっと並べる際には椅子の脚同士の干渉がなくなり多くの椅子が設置できます。
脚が少ない方が見栄えが良い
エーロ・サーリネンは椅子の脚の本数が4本あることに憂いていました。
机に椅子を4脚合わせた状態を机の脚4+椅子の脚4×4=合計20本もの脚が地面に伸びる様を”スラム”だと表現しているぐらいです。
そうして1本脚のペデスタブルチェア(チューリップチェア)をデザインしました。
この椅子はプラスチックとアルミダイキャストで構成されていることで実現したデザインです。
これが木製の椅子となると一本脚のデザインは相当に難しくなります。(切り株みたいなデザインなら容易)
そこで少しでも減らすために3本脚にしたというものです。
脚が1本少ないとそれだけ材料が少なく済む
ちょっと制作側の都合すぎるのですが、脚を1本減らすことで材料も製作コストも抑えられます。
大量生産をするにはその脚1本が大きな違いとなるためです。
実際チャールズ・イームズはそれもあり3本脚を作っていました。
こういった理由で3本脚の椅子が生まれましたが現代ではあまり見かけません。
古くから存在する有名デザインの椅子が現役で3本脚なだけで、新たなデザインで3本脚は珍しいです。
なぜ現代では3本脚の椅子を見かけなくなったかというと、結局人が座るには「耐荷重」や「転倒リスク」が気になるからです。
3本脚の椅子が安定するのは物体としてのことです。
そこに重心が加わると話は別です。
人が座るということは椅子にランダムな重心がかかります。
そうすると3本脚の椅子は転倒する可能性があります。
また耐荷重についても3本の脚で人の体重を分散するより、4本の脚で分散したほうがより高重量を支えることができます。
3本脚の椅子でも普通に座る分には転倒することは考えづらいのですが、現代は昔と違い製品の安全性を非常に気を使います。
少しでもケガや転倒のリスクがあるデザインはそのまま販売すると万が一事故が起きた時に賠償リスクがあります。
そのためそうしたリスクを排除したデザインとして4本脚の椅子が一般的になったわけです。
ワークチェアのキャスターも昔は4個でしたが現在は5個に分かれているのが一般的です。
これも4個のキャスターでは転倒リスクがあったからです。
ということで3本脚の椅子についての話でした。
こうして椅子のデザインもいろいろな事情で変わっていくわけですね。
デザイナーの意思を優先して死後にアントチェアのように後から4本脚が作られることもあります。
この事例から考えると、やはり4本脚のほうが製品として販売するには安定するということですね。
床への設置が安定するのは3本脚のほうですけどね!
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