今となっては吊るして揺らめくインテリアオブジェを何でもかんでも「モビール」と呼んでいます。
一昔前は「モビール」という名称自体の知名度が低く、それが何かわかる人は少なかったですが今となっては一般的なインテリアとなりました。
ですが本来の「モビール」の意味とは違った使われ方になっています。
「モビール」はそもそもアレクサンダー・カルダーの彫刻作品の呼び名でした。
モビールの本当の意味とは
アレクサンダー・カルダーは20世紀を代表する米国の彫刻家です。
カルダーは動く彫刻を考え、それを1931年にアトリエを構え作品を並べていました。
(書籍アレクサンダー・カルダー P.20 宇宙 )
そこに訪れた美術家のマルセル・デュシャンがカルダーの彫刻を「モビール (フランス語で”動く”という意味)」と名付けました。
モビールという名称自体、デュシャンが自身の作品に使っていたものです。
それをカルダーの彫刻を表す言葉として使われたことで、以降、カルダーの動く彫刻は「モビール」と呼ばれました。
動かない彫刻はスタビールと呼んでいました。
この時のカルダーのモビールは上から吊るすものではなく、スタンド型やモーターを使ったものでした。(上写真参照)
(書籍アレクサンダー・カルダー P.35 孔雀 )
1940年代に上から吊るすこのスタイルに辿りつきます。
派手な配色は抽象画家のピエト・モンドリアンの影響です。
カルダーのモビールは大きな評価を得たことで、モビール=上から吊るしてゆらゆら動くオブジェというイメージがつきました。
上からつるして動くオブジェ自体がカルダーの発明ではありません。
デンマークでは古くから天井からつるして動くオブジェがあります。
日本では風鈴があります。その原型は縄文時代からあるそうです。
赤ん坊をあやすために上からつるして揺らめかせる玩具もあります。
上から吊るして動くオブジェというものは、人類にとっては普通に昔から存在していました。
それを芸術として昇華したのがアレクサンダー・カルダーということです。
絶妙なバランスデザインに独自の配色、これらが合わさってカルダーのモビールは評価を得ました。
(ブルーノ・ムナーリ回顧展公式図録 P36-37 左)軽やか機械 右)役に立たない機械)
その一方で、イタリアのブルーノ・ムナーリの方が上から吊るすオブジェをアートにしたのは早かったです。
ムナーリは1930年には「軽やかな機械」を、1933年には「役に立たない機械」を発表しています。
ムナーリの作品はキネティックアートと呼ばれていましたのでモビールという名称は使われていませんでした。
ムナーリの方が早かったかもしれませんが、誰が最初かというより、先述の通りそもそも吊るして揺らめくオブジェ自体は存在しています。
あくまで自分の作品として作り上げアートジャンルにしたのがカルダー、そして彼の作品のことだけをモビールと呼んだわけです。
それがいつの間に何でもかんでもモビールと呼ぶようになったのかは定かではありませんが、1954年にはデンマークでフレンステッドモビールが創業していることを考えると、かなり以前からモビールという名前は芸術以外でも使われていたのでしょう。
日本でモビールが一般的になってきたのは私の記憶では12年ぐらい前からです。
もっと以前からモビールという名前が付いたインテリアオブジェは販売されていましたが、限られたショップだけの扱いでした。
北欧系を扱うところはデンマーク由来のモビールは扱っていましたし、ホッチキス社のカルダーみたいな製品なども存在していました。
でもモビールなんてものはインテリアショップでも珍しいほうでしたね。
そのうち北欧ムーブメントが起きるとともに急にモビールという呼び名の製品が増えだしました。
それこそどこのインテリアショップでも扱うようになり、その頃にはモビールという名前が定着しました。
いまではモビールは誰でも知っているぐらいのインテリアアイテムとなりましたね。
ということで、モビールは本来はカルダーの作品だけを指す言葉だったんですよという話でした。
ですが別に言葉の意味を正したいわけじゃ無いので、知識として知っておいてもらえたらそれで良いですよ。
いちいち『モビールはカルダーのものだけだ!』とか私は主張しません。
言葉の意味が変わっていくこともありますよね。
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