世の中にあふれるワークチェアやゲーミングチェアの中から「自分に合う椅子がある」と思っていませんか?
「あなたに合うワークチェア選びをします」と聞きませんか?
そんなものはありません。

腰が痛い。
長時間パソコンに向かっていると、腰がつらい。肩が凝る。首が痛い。
そんなとき、家具業界はこう言います。
「椅子が合っていないんじゃないですか?」
「あなたの身体に合う椅子があります」
「人間工学に基づいた椅子なら、もっと楽に座れます」
「腰をサポートする椅子があります」
そして私たちは、椅子を探し始める。
もっといい椅子はないか。
もっと自分に合う椅子はないか。
この椅子なら腰が痛くならないんじゃないか。
でも、私はそこに大きな錯覚があると思っています。
何かを買えば問題が解決する、という錯覚
本当に痩せたいなら、何かを買えば痩せるわけではありません。
本当に試験に受かりたいなら、何かを買えば合格できるわけでもありません。
「頭が良くなる薬」を探し続けるより、勉強するしかない。
もちろん、教材や勉強法や机には意味があります。
でも、それらは勉強そのものの代わりにはならない。
身体も同じです。
身体を健康にしたいなら、身体を動かすしかない。
運動する。
筋力をつける。
身体を動かす。
必要ならストレッチをする。
そして、自分の身体に何が起きているのかを知る。
これは単なる精神論ではありません。
人間の身体は、身体活動を前提として維持されるものです。
世界保健機関(WHO)は、定期的な身体活動が心血管疾患、2型糖尿病、一部のがんなどの予防・管理に役立ち、筋力や心肺機能、健康的な体重の維持にも重要だとしています。
また、成人については、座っているなどの座位行動を減らし、その時間を軽い活動を含む身体活動に置き換えることにも健康上の利益があるとしています。
成人には週150~300分の中強度の有酸素運動などが推奨されています。
つまり、「身体を動かすこと」は健康維持のための本質的な行為であって、椅子によって代替できるものではありません。
もちろん、椅子や机などの道具には意味があります。しかし、それは身体を動かすことの代わりにはなりません。
それをせずに、「自分に合う椅子」を探し続けても、本質的な問題は解決しません。
「あなたに合う究極の椅子」という幻想
私は、「自分に合う椅子」という言葉そのものに違和感があります。
もちろん、身体の大きさや作業内容、机の高さなどによって、座りやすい椅子、使いやすい椅子はあります。
しかし、それは「あなたの身体の問題を解決する究極の椅子が存在する」という意味ではありません。
ところがマーケティングでは、いつの間にか話が変わってしまう。
腰が痛い。
すると、「椅子が合っていないんですよ」となる。
そして、「あなたに合う椅子があります」となる。
それで椅子を買う。
それでも腰が痛い。
すると、「まだあなたに本当に合う椅子に出会えていないのかもしれません」となる。
また買う。
そしてまた探す。
この繰り返しです。
でも、考えてみてください。
すでに腰を悪くしている人が、椅子を何回買い替えたところで、それだけで身体の問題が解決するでしょうか。
10脚買っても、20脚買っても、100脚買っても、椅子そのものが身体を動かしてくれるわけではありません。
それなのに、その人は一生、「もっと自分に合う椅子があるんじゃないか」と探し続けることができてしまう。
ここに私は、家具業界の大きな問題があると思っています。
椅子には意味がある。ただし、できることには限界がある
誤解してほしくないのですが、私は「椅子なんて何でもいい」と言っているわけではありません。
椅子には当然、意味があります。
人間は仕事をするうえで、どうしても座らなければならない時間があります。
「座る」という行為を避けられない以上、その時間に身体へ余計な負担をかけないようにする。
それが椅子の仕事です。
つまり椅子が目指すべき最大のパフォーマンスは、基本的には「現状維持」です。
健康な身体を、座っていることによって必要以上に悪化させない。
健康そのものを作るのは椅子ではありません。
身体を健康に保つのは、自分自身です。
だから順番が重要なのです。
自分で身体を健康に保つ。
そのうえで、どうしても座らなければならない時間を、椅子によってできるだけ悪化させない。
これが本来の関係ではないでしょうか。
ところが現在は、この順番が逆転しています。
「長時間座れる」が本当に価値なのか
特にそれが極端なのが、ゲーミングチェアだと思っています。
「長時間座っていられます」
「深くリクライニングできます」
「そのまま寝られます」
「何時間でも快適にゲームができます」
一見すると、素晴らしい機能です。
でもそこで一度立ち止まって考えてほしい。
人間の身体を動かなくさせて、いったい何が良くなるのでしょうか。
「座っていられる時間が長い」ということと、「身体にとって良い」ということは同じではありません。
むしろ、人間に必要なのは、ずっと座っていられる身体ではなく、ちゃんと立ち、歩き、動く身体です。
これは医学的にも、単なる感覚論ではありません。
WHOは、成人について座位行動が多いことを、全死亡、心血管疾患による死亡、がんによる死亡、心血管疾患・がん・2型糖尿病の発症などの不良な健康アウトカムと関連づけています。
そして、座位時間を減らし、それをどの強度でもよいので身体活動に置き換えることが健康上の利益につながるとしています。
だから「どれだけ長く座っていられるか」を、そのまま「どれだけ健康でいられるか」と考えることはできません。
それなのに「何時間でも座れる」「寝られるほど快適」ということを、あたかも身体にとってのメリットであるかのように売る。
私はそこに、今の家具業界の大きな矛盾を感じます。
本当に必要なのは「椅子選び」なのか
腰が痛い人がいたとします。
まず考えるべきことは、「どの椅子を買えばいいか」でしょうか?
違います。
まず「なぜ腰が痛いのか」を考えるべきです。
運動不足なのか、筋力なのか、反り腰なのか、骨格なのか、そうやって原因を探り、身体そのものに対して働きかける。
それが本来の問題解決ではないでしょうか。
もちろん、腰痛にはさまざまな原因があります。すべてを「運動不足だから」と決めつけることもできません。
だからこそ、椅子を買って終わりにしてはいけないのです。
「椅子が悪い」という一言で問題を片付けてしまった瞬間に、本当の原因を探る機会を失ってしまうからです。
道具では解決できない問題まで、道具の問題にしてはいけない
デザインとは「社会や人の問題を解決するための道具」です。
だからこそ、道具で解決できない問題まで、道具の問題にしてはいけないと思うのです。
道具は、人間の努力を代替するものではなく、人間がやるべきことを支えるものです。
私はそこを間違えてはいけないと思っています。
家具は「問題を作る商品」になってはいけない
資本主義の中では、商品を売らなければ企業は成立しません。
だから「もっと良いものを買いましょう」と言うこと自体は当然です。
問題は、そこに存在しない問題解決を作り出してしまうことです。
「あなたに合う椅子がある」
「もっと腰に良い椅子がある」
「もっと長く座れる椅子がある」
「もっと快適に仕事ができる椅子がある」
そうやって消費者に「まだ自分に合うものを見つけられていない」という感覚を持たせる。
すると、椅子は一度買えば終わる道具ではなくなります。
買い替え続けるものになる。
そして、問題が解決しないことすら、「まだ自分に合う椅子を見つけられていないからだ」と解釈される。
よくありません。
本当のデザインとは何なのか
もし家具が本当に人間のための道具なら、家具業界が言うべきことは、必ずしも「この商品を買ってください」ではないはずです。
時には「まず身体を動かしてください」と言うべきです。
そのうえで「座らなければならない時間のために、この椅子はどうかと」と提案するべきです。
それが本当の意味で人間の問題を解決しようとする姿勢ではないでしょうか。
家具が社会のために存在するのであれば、売上を最大化することよりも、人間の生活を良くすることを優先する。
私は家具というものは、本来そういうものであるべきだと思っています。
椅子は身体を治すものではない。
健康を作るものでもない。
人間の代わりに身体を動かしてくれるものでもない。
椅子は、どうしても座らなければならない人間を支えるための道具です。
私は、それが家具とデザインの本来あるべき姿だと思っています。
参考資料
- World Health Organization, WHO Guidelines on Physical Activity and Sedentary Behaviour
- World Health Organization, Physical activity
- World Health Organization, WHO guidelines on physical activity and sedentary behaviour: at a glance
※本稿は家具とデザインについての批評的な考察です。腰痛にはさまざまな原因があるため、強い痛みや長引く症状がある場合は、椅子の買い替えだけで対処せず、医療専門家に相談してください。
本記事は筆者の走り書きを元に校正をAIに任せたものです。

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