
よくイームズの家具は「合理的」と評価されます。
しかしその合理性は、単に形や量産性だけではなく、「修理を前提としている」という点にもあります。
イームズの家具は、修理し続けて使うこと自体を合理的と考え、修理可能な構造で設計されています。
つまり、壊れることも前提に入れたうえで、修理を繰り返しながら長く使い続けるデザインなのです。

代表的な例が、チェアに使われているショックマウントです。
ゴム製のショックマウントは座り心地を向上させる優れた選択ですが、ゴムである以上、劣化や破損は避けられません。マウントが剥がれることも珍しくありません。
しかし、マウントを付け直せば新品同様の座り心地に戻ります。
脚の交換が可能なのも、修理前提の設計である証です。
基本的にイームズの家具は分解できるように設計されており、長く使い続けるために修理を容易にしている点も重要な評価対象です。
これこそが本来の意味でのデザインと言えるでしょう。
かつて、このショックマウントの修理は販売店がそれぞれ対応していました。
しかし現在、日本ではマウント修理ができる人は激減し、今や絶滅危惧種と言える状況です。
一方でメーカーは「修理」をしないわけではありません。
ただし実態は「部品交換」です。
保証期間内であれば無償対応になりますが、問題は保証終了後です。
有償修理になると高額になります。
なぜなら座面を丸ごと交換するため、実質的に新しいパーツを購入しているのと同じだからです。
現在の家具メーカーの多くは「修理」と言いながら、実際には部品交換しか行いません。
しかも部品単体の販売は行わず、送料・作業費も発生します。
結果として、新しい家具を販売しているのに近い構造になっています。
部品や作業費には当然利益も乗るため、ビジネスとしては合理的なのです。
これは家具業界に限った話ではありません。
多くのメーカーが「修理」と称しながら、該当部品だけでなく周辺部品ごとの交換を行い、部品単体の販売をしなくなりました。
日本には修理する権利の法律がないからです。
かつてはメーカー自身が本当の意味で修理を行い、部品のみの販売も一般的でした。
しかしグローバル化が進み、国内の工場も無くなり、利益重視の経営が主流になる中で、消費者にとって不利な選択が増えていきました。
今は「便利なものを発明して稼ぐ時代」から、
「修理や交換を通じて二重に収益を得る時代」へと変わってしまったのです。
修理で利益率を上げる仕組みは、投資家からも評価されやすいからです。
イームズラウンジチェアも同様です。
かつては販売店が修理を担い、張替えや出張修理も行われていました。
ソファもデスクも含め、イームズの家具は修理を前提として長く使える製品でした。
しかし現在、イームズ家具を販売する店舗自体が減少し、それに伴い修理の知識や経験を持つ人も消えつつあります。
現役のプロは、既存顧客の修理のみ対応し、持ち込み修理は受けないケースがほとんどです。
私自身もかつて持ち込み修理を行っていましたが、他店購入品の修理はトラブルが多く、赤字になりやすく、精神的にも消耗しました。
そして店舗自体が減っていきました。
修理できる人がいなくなれば、イームズ家具を新たに購入する人も減っていきます。
結果として「痛い思いをした製品」という印象だけが残り、避けられていく可能性すらあります。
文化とは、それを伝える人がいなくなれば必ず衰退します。
メーカーやデザイナーだけでは文化は成立しません。
現場で支える人々がいてこそ、文化は維持されます。
イームズ存命時は、メーカー工場や販売店が修理を担う前提でデザインされていました。
しかし現在、その前提が崩れ、イームズ家具の合理性は現代に適合しにくくなっています。
もちろんこれは私見ですが、この問題はイームズだけのものではありません。
過去の多くのデザイナーのプロダクトにも共通する問題です。
メーカーの寡占が進めば、修理はますます消費者に不利になります。
以前触れた「修理する権利(Right to Repair)」の議論が生まれた背景も、まさに同じ構造です。
修理できる人がいなくなったとき、その文化は本当に終わります。
価値を生み出すのはメーカーやデザイナーだけではありません。
なおトップ画は生成AIです。
よく見なくても全然イームズじゃないですね。

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